諜報部長!お世話になってます!
さすらいの情報収集家Kです。

さて、今回のテーマは、
前回に引き続き、
「米中貿易戦争」についてです。
しっかりチェックしておきましょう!

米中貿易戦争が本格化! 今後の行方は? 《中編》

前回、米中貿易戦争の現状をまとめましたが、
特に気になるのは今後の行方ではないでしょうか。
今後、両国がどう動くかは一概に「これだ」
と言えるものではありませんが、
考えられる可能性をまとめてみます。

●米中貿易戦争の行方は?

前回まとめた通り、この米中貿易戦争は、
徐々にラリーの応酬が拡大してきており、
現段階ではどちらも退く気配がない状況にあります。

特に、米国側は輸入額が中国より3倍以上多いため、
関税をかけられる幅が広く、
引き続き有利に展開できると考えているようです。

一方の中国側はメンツが重視される文化であり、
「平等がなく上下関係だけがある社会」と
揶揄されることからわかる通り、
一度引いてしまえば
トランプに屈した習近平
という事実が出来上がってしまい、
中国共産党の指導者としての立場が
危うくなるわけです。

こうしたことから、
当面の間は続くことになるとの見方が
大勢を占めているようです。

では、具体的にどのような応酬が
行われるのでしょうか。

米国は当面関税の品目・金額を
徐々に拡大していく方針を
打ち出していますから、
中国がどこで折れてくるかを
待っている状態でしょう。

一方の中国には何か有効な対抗策があるのでしょうか?

●中国の対抗策は?

中国は、米国と貿易金額に大きな差があるために、
このまま追加関税競争をしても
早晩に手がなくなるのは明らかです。

そこで、それ以外の対抗策を
出してくるしかない状況にあります。

対抗策1:WTOへの提訴

まず、既に実施したのが「WTOへの提訴」です。

7月16日、中国商務省が
米国の知的財産権侵害を
理由にした追加関税について
世界貿易機関(WTO)に提訴したと
発表しました。

「米国が不当な制裁を行っている」
と中国の息のかかった国々を始めとして
賛同する国を募り、国際世論を形成していくことです。

ですが、おそらくこれは
ほとんど意味をなさないことになるはずです。

その理由は、中国の提訴と同日に
米国も中国をWTOへ提訴しており
両大国の仲裁をWTOでは十分できないこと、
また、トランプ大統領は
WTOの脱退を検討していると言われ、
WTOの動き方次第では
それが現実のものになる可能性があります。

加えて、中国自体が別件でWTOに
提訴されているケースも多く、
直近ではEUが中国を知的財産権侵害や
強制的な技術移転などで提訴しています。

つまり、中国から見れば
WTO提訴を盛り上げすぎると
「ヤブヘビ」になりかねません。

そうした観点から見ると、
おそらく「WTO改革が必要だ」として
各国が協調することはありえますが、
米中貿易戦争を仲裁するようなことには
ならないわけです。

対抗策2:元安誘導

既に中国は元安誘導しており、
ここ数カ月で少なくとも
7~8%は安くなっていると言われています。

これは、今回の米中貿易戦争とは関係なく、
中国国内の内需の不振や
企業のデフォルト(債務不履行)の増加、
インフラ・設備投資の落ち込みなど
足元の景気減速を懸念しての対応のようです。

ですが、この状況下で
さらに元安誘導を行うとなれば、
パニック的な資金逃避へつながる可能性があり、
自ら首を絞めることになりかねないわけです。

そうした面から、中国側はこれ以上の
急速な元安誘導はできないと考えているはずです。

対抗策3:関税率の引き上げ

次に考えられることは、
「関税率を更に引き上げる」ことです。

現段階では、25%としている
大豆などの関税ですが、
これを更に引き上げることで
報復措置を強めるという対抗策です。

米国との貿易額の差が大きいため、
現在米国が掲げている制裁額には
対象項目を増やすだけでは到底追いつきません。

そこで、税率をあげることで
報復措置としようという考えです。

25%の追加関税でも十分高い上に、
更にそれ以上となれば
米国企業はたまったものではないでしょうから、
それを米国政府に陳情するような
流れになる可能性はあります。

ですが、実際のダメージを比べて見ると
中国側の方が大きい気がします。

前回説明した通り、米中の対象品目は
中国が輸入している大豆などの農作物は
規模が大きく、代替で他の国から
同量を輸入するようなことは、ほぼ不可能です。

つまり、結果的に中国国内の大豆などの
供給が大幅に不足し、値段が高騰することに
なりかねません。

そうなれば中国国民への直接的な打撃になり、
習近平体制への不満が増大するのは確実でしょう。

対抗策4:米国への渡航制限

2016年時点での訪米中国人観光客数は、
述べ約300万人で訪米外国人旅行者の
約4%を占めており、国別順位では5位に位置しています。

延べ人数的にはそれほど大きなものではないですが、
消費額ではダントツの1位で10億ドルに上ります。

これは米国の外国人旅行者消費額全体の
約60%を上回る額で、
仮に米国への渡航制限を行った場合、
少なからず米国に打撃を与えることが
できるかもしれません。

2017年に中国が韓国への渡航制限を行った際には、
訪韓中国人が半減し
韓国経済へ大きな打撃を与えた
という前例がありますから、
比較的実行しやすい対抗策かもしれません。

ですが、米国の追加関税の対抗策として考えると、
まだまだ規模が小さく
有効打になるとは言えないのではないでしょうか。

対抗策5:米国企業への嫌がらせ

次に考えられるのは、
「中国国内の米国企業への嫌がらせ」です。

例えば、数年前に日本や欧米の外資企業が
独占禁止法違反を理由に罰金等を
次々と科されるようなことがありましたが、
そうした嫌がらせをして、
企業からトランプ政権へ
制裁をやめるような圧力を期待するというものです。

中国国内の米国企業への嫌がらせは、
中国の法律等で様々な理由で
いくらでもかけることができる状態ですから、
実施するのは簡単でしょう。

ただ問題は、本当に実施してしまうと
米国企業はもちろんのこと、
他国の外資系企業が
中国国内から出て行ってしまう
キッカケになりかねないというリスクがあります。

対抗策6:不買運動や反米デモ活動

こちらも難しいですが、
「不買運動や反米デモ活動を行う」です。

2012年に民主党政権末期に
当時の野田首相が魚釣島を国有化
したことを発端として、
中国国内で数十万人規模動員がされた
“官制”デモが行われました。

動員された人々がエスカレートして
暴徒化するケースも多く、
日系企業と見るや破壊・略奪・暴行・放火が行われ、
甚大な被害を受ける状況となりました。
再び同じようなやり方で
不買運動から反米デモを扇動する可能性も
ないとは言えません。

その効果は、「大変なことになった」と
相手国の国民に知らしめるには十分で、
「トランプが招いた人災だ」
と両国世論が動く可能性もあるでしょう。

ですが、現実的に考えると
かなり難しい選択だと思います。

その理由は、米国と日本では
政治体制や国民性が全く違うということです。

残念ながら日本は、反日デモで
日本企業に対する甚大な無法な行為が
されたにも関わらず「政府が抗議する」だけでした。

一方、米国の場合はどうでしょうか。
少なからず中国国内の米国民救出のために
軍事的手段に出る可能性はありますし、
下手をすると軍事衝突レベルまで
発展する可能性は否定できません。

そうした意味では、
中国が反米デモを扇動した場合は、
貿易戦争から本当の戦争にまで
発展するリスクがありますし、
反日デモの際にも見られた
中国共産党への不満を煽る形にも
なりかねませんからリスクが高すぎる気がします。

対抗策7:米国債の売却

最後の切り札とされるのが
「米国債の売却」です

中国が保有する
約1兆2000億ドルに迫る米国債を
売却するというカードです。

また、実際に売却しなくても
「これだけ圧力をかけてくる国の
国債を保有しつづける理由はない」
として売却を示唆することによる
アナウンス効果で米国債の暴落を
誘発できる可能性があります。
これが中国の切れる最後のカードになると
見る有識者も多いようです。

しかし、そうした中国最後のカードにも
米国は準備ができているという見方もあります。

米国債は登録制で、
米国の安全保障などに敵対する国家の保有分は
国際緊急事態経済権限法等により
「無効化」出来る仕組みとなっています。

さらにこの仕組みは、
議会を通さず大統領令のみで実行できるため、
事実上トランプ大統領の意向次第で
即座に実施できる状態なのです。

つまり、中国が保有する米国債売却するために、
米国を事実上の敵国認定することで大義を得ますが、
その敵国認定こそがトランプ大統領にとっての
国債無効化の発動条件になっている
と見ることができるわけです。

また、中国が米国債を
大量に買っている理由は
外貨準備のためと言われています。

これを大量に売却するとなれば
人民元の信用を棄損し
暴落を招きかねないという懸念もあります。

こうしたことから、
中国の米国債売却は
事実上「切れないカード」になりそうです。

●今後のカギは?




以上のように中国の様々な対抗策を見ても、
効果的なものが少なく手詰まり感が否めません。

そういった意味では、
中国は「できることをやれるだけやる」
ような多方面での報復措置をしてくる
ことになるのではないでしょうか。

ただ、前述の対抗策以外に
貿易の枠を超えて通貨・経済と広げていくと、
さらに中国側の情勢が悪くなるのも明らかです。

例えば、米国がシーレーンなどの
安全保障カードや台湾カードを切るとなれば、
米国側がさらに有利になるでしょう。

トランプ大統領は、当然こうした状況を
見越した上で今回の貿易戦争を
仕掛けているのでしょうが、
中国がどこで折れると考えているのか
全く読めません。

実際のところ、中国は最初から折れていれば
最もダメージが少なかったのではないかと思いますが、
打撃を受け始めた今となっては、
何らかのキッカケがなければ
引けない状況になっているのかもしれません。

そう考えると、今後のカギを握るのは、
おそらく両国民の世論や
国際世論になるのではないでしょうか。

ということで、次回は
米中貿易戦争の世論について
まとめてみたいと思います。